労基法「約40年ぶり見直し」と言われる背景は?会社の運用で迷いやすい論点を整理|南信州の社労士

「労働基準法が約40年ぶりに大きく見直される」といった話題が増えています。見出しが先に広がりやすく、「すでに決まった話」と「これから検討が深まる話」が同じ調子で伝わってしまうこともあります。
会社として大切なのは、話題の大きさに振り回されることではなく、自社の運用で判断に迷いやすい点を先に整理しておくことです。休日の数え方、シフトの組み方、業務時間外の連絡、管理職の扱い、兼業の可否などは、実務の中で判断が分かれやすく、従業員の納得感にも影響します。
この記事では、公表されている資料で示されている論点を手がかりに、経営者・ご担当者様が「どこで迷いが生まれやすいか」を、できるだけ実務の言葉で整理します。
いま何が起きている?公表資料から見える“論点”の全体像
現在の動きを理解するうえで押さえたいのは、労基法を中心としたルールについて、働き方の変化を踏まえた中長期の見直し論点が整理されていることです。
厚生労働省は「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表し、労働時間・休日・多様な働き方に関する論点をまとめています。
また、労働政策審議会(労働条件分科会)でも、勤務間インターバルや業務時間外の連絡等を含むテーマが資料として示され、議論が続いています。
経営者・ご担当者様にとって重要なのは「条文がどう変わるか」を予想することよりも、次の視点が必要です。
- 自社の勤務形態(シフト、早朝・深夜、繁忙期)に直結するテーマは何か
- 社内で判断が割れやすいテーマは何か(休日、管理職扱い、兼業、連絡ルール)
- 実態と社内ルールの関係を、従業員に分かる言葉で説明できるか
論点が整理される局面では、従業員側の関心も高まり、「うちの会社はどう考えているのか」が問われやすくなります。会社として考え方を言葉にしておくだけでも、現場の誤解や不満が膨らみにくくなります。
実務で影響が出やすい論点(現場が迷いやすいところ)
ここからは、会社の運用で特に質問や相談が出やすい論点を取り上げます。
3-1. 休日・連続勤務:言葉の整理が弱いと、受け止め方が変わりやすい
休日には基本ルールがありますが、実務では言葉の整理が不十分だと、受け止め方が変わりやすい分野です。研究会報告書でも、休日に関連して連続勤務の問題意識に触れています。
現場で起きやすいのは、例えば次のような状況です。
- 「法定休日」と「所定休日」を区別しないまま説明している
- 「振替休日」と「代休」が混同され、割増賃金や取扱いの説明が食い違う
- 繁忙期のシフトで、結果として休みが取りづらい期間が長くなる
休日は生活の前提に直結します。説明の仕方が担当者によって変わると、「会社として基準が見えない」と受け取られやすくなります。逆に、休日の種類と取扱いが整理されると、従業員の理解が進み、管理職の判断負担も軽くなります。
3-2. 勤務間インターバル:努力義務でも、放置すると“別の問題”で表に出る
勤務間インターバル(終業から次の始業まで一定の休息時間を確保する考え方)は、現在、努力義務として位置づけられています。
このテーマは「義務化されるかどうか」だけに注目すると、実務の論点を見落としがちです。現場で先に問題になりやすいのは、次のような現象です。
- 残業や突発対応で、翌日の始業までの時間が短くなる
- 早朝始業の職場ほど、終業が後ろにずれると休息が削られやすい
- 一部の人に負担が集まり、休息不足が慢性化する
この状態が続くと、離職・メンタル不調・事故リスク・生産性低下など、別の形でコストが増えやすくなります。制度の議論が進むほど、「休息をどう確保しているか」「無理な働き方が固定化していないか」を説明できるかが問われやすくなります。
3-3. 業務時間外の連絡:善意でも“休めない”につながる
分科会資料では、いわゆる「つながらない権利」に関する論点も示されています。
制度がどう設計されるか以前に、現場の運用で相談が出やすい領域です。
- 休日や夜間の連絡が当たり前になっている
- 返信しないと評価が下がりそうで、実質的に休めない
- 管理職が「確認」のつもりでも、受け手は断りづらい
会社側に悪意がなくても起きやすいのが特徴です。境界線がない状態が続くと、不満が溜まってから表面化しやすくなります。「何時以降は緊急時のみ」「連絡手段はこれ」など、会社としての方針を言葉にできるかがポイントになります。
3-4. 週44時間特例:該当する場合、影響が広がりやすい
研究会報告書では、法定労働時間が週44時間となる特例措置について、利用実態等を踏まえた見直しの方向性が示されています。
該当する場合、影響が一部にとどまりにくい点が実務上の難しさです。
- 所定労働時間の設計(契約・規程・シフト)
- 時間外労働の発生のしかた
- 賃金計算・割増賃金の説明
- 36協定の運用との整合
「該当するか分からない」という段階でも、就業規則、シフト、賃金計算の前提を確認すると論点が見つかることがあります。会社ごとの差が大きい部分だからこそ、早めに把握しておくと安心です。
3-5. 兼業・副業:会社のOK/NGだけでは説明が終わらない
研究会報告書では、副業・副業と労働時間・割増賃金の扱いも論点として整理されています。
副業が一般化するほど、会社は方針と運用ルールを以下のような論点で求められやすくなります。
- 健康確保(過重労働になっていないか)
- 情報管理(顧客情報・ノウハウ)
- 労働時間の把握と説明
- 事故が起きたときの整理
担当者によって判断が変わる状態は、従業員の不信感につながりやすいため注意が必要です。
会社で起きやすい「認識の違い」と、揉めにくくする考え方
実務で相談につながりやすい典型的なポイントを3つに整理します。法律用語を増やすよりも、「会社としての基準」を明確にするほうが効果が出やすい場面が多いからです。
① ルールはあるのに、言い方が人によって変わる
就業規則(会社のルールブック)や36協定があっても、説明が人によって変わると、従業員は不安を抱きやすくなります。「担当者により言い方が違う」「管理職によって判断が違う」という状態は、会社としての基準が見えにくくなります。
揉めにくい会社は、条文の暗記ではなく、説明の骨格(判断の順番)が整っています。
休日の種類、振替・代休の取扱い、時間外労働の考え方などを、社内で同じ順番・同じ言葉で説明できるだけで、現場の摩擦は大きく減ります。
② 繁忙期の取扱いが積み上がり、後から説明が難しくなる
繁忙期や突発対応がある職場では、例外的な取扱いが必要になることがあります。問題は、例外が重なった結果、後から説明が難しくなることです。休日・休息時間・時間外労働は、繁忙期にこそ歪みが出やすい領域です。
重要なのは、例外をゼロにすることではなく、例外が起きたときでも説明が破綻しない状態にすることです。
「どこまでが想定内で、どのラインから見直しが必要か」を会社として言葉にできると、従業員の納得感が上がります。
③ 負担が一部の人に固定化している(本人は言い出しにくい)
勤務間インターバルや連続勤務に関する相談で多いのが、「組織としては回っているが、実態は特定の人の無理で支えている」状態です。本人は責任感から言い出しにくく、周囲は気づきにくいことがあります。
結果として、退職や不調で一気に表面化するケースもあります。
制度対応というより、負担の偏りが固定化していないかを把握できる状態にすることが、経営リスクを下げます。採用・定着にも影響するため、早めに目を向けたいポイントです。
従業員に聞かれたときの説明のコツ(言い切らない/でも曖昧にしない)
話題が広がる局面では、従業員から次のような質問が出やすくなります。
- 「勤務間インターバルって、うちはどう考えていますか?」
- 「法定休日はいつですか?」
- 「この連勤は問題ありませんか?」
- 「管理職だから残業代は出ないんですよね?」
- 「副業していいですか?」
このとき大切なのは、断定で押し切らず、しかし曖昧に逃げないことです。
すすめたいのは、「現時点の位置づけ」「会社の考え方」「運用上の取扱い」を混ぜない説明です。
たとえば勤務間インターバルなら、現在は努力義務であることを踏まえつつ、会社として休息確保をどう考えているか、現場の状況に応じて運用を見直す余地があるか、という順序で話すと、必要以上に不安を広げずに誠実な説明になります。
休日も同様で、「休日の種類」「振替・代休の扱い」「賃金への影響」を分けて説明できると、質問が大きな不満に変わりにくくなります。管理職扱いや兼業も、会社の実態により整理ポイントが変わるため、言い方や判断の順番を統一することが特に重要です。
よくある質問(FAQ)
- 「約40年ぶりの改正」って、もう決まっているんですか?
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公表されている報告書や分科会資料で論点が整理され、議論が続いている段階です。確定内容や時期は今後の検討の進み方で変わり得ます。
- 勤務間インターバルは「11時間」が必須になるんですか?
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現時点で一般の会社に一律で11時間が義務化された、という整理ではありません。一方で導入促進や実効性のある措置が論点として示されています。
- 休日の説明で揉めやすいのはどこですか?
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法定休日と所定休日の整理が曖昧なまま運用され、休日労働の割増や振替・代休の説明が食い違うケースです。従業員の納得感に直結しやすい部分です。
- 管理職扱い(管理監督者)は役職名だけで決まりますか?
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役職名だけで一律には決まりません。職務権限、労働時間の裁量、待遇など複数要素で整理が必要で、実態に応じた判断が重要です。
まとめ
- 労基法をめぐる見直しは、報告書の公表や分科会での議論を通じて論点が整理されている段階です。
- 影響が出やすいのは、休日・連続勤務、勤務間インターバル、業務時間外の連絡、週44時間特例、兼業など「運用」と「説明」が絡むテーマです。
- 情報を追い続けること以上に、会社の基準や判断の順番を明確にし、負担の偏りが固定化していないかを把握できる状態が重要です。
制度の議論が進むと、「何が正解か」を急いで決めたくなります。しかし実務では、休日の扱い・連絡の境界線・管理職扱いなど、判断が分かれやすいポイントを先に整えるだけで、従業員の不安や現場の摩擦が大きく減ることが多いです。大きな変更を一気に行うよりも、「会社としての基準が曖昧な部分」を見つけて明確にするほうが、結果的に会社を安定させます。

